河上彦斎-和歌



河上彦斎は剣客でもあり、国学者でもあり、また優れた文才をもちたくさんの和歌を詠んだ
「歌人」でもありました。国を思い自らの志を詠んだ歌、多感な青年期に詠んだ匂やかな恋の歌、
家族への愛を詠んだ歌など、彦斎の意外な一面をこれらの和歌から見ることができます。
年表に照らし合わせて彼の歌を挙げてみました。


【故郷へ…】

藩主の参勤交代の供で江戸に来ていた彦斎、
いよいよ熊本に帰る日がきました。久しぶりの故郷への帰省に胸を躍らせます。
それぞれ出立時、道中に詠んだ歌です。

帰る日の朝
まちにまちて旅の館はいづるともしばし名ごりをしき今朝かな

遊女をことわる
(道中遊女に誘われますが、その女を哀れとは思いながらもキッパリと断ります)
あはれとは思ひしかとも梓弓こころつよきは武士の道

美女に一目惚れ
(遊女を断ったかと思えば今度はそこ行く美人に一目惚れ)
一め見し人の面影いとどしくこころにかかる事ぞ口惜し



【恋の歌その1】


彦斎が茶坊主時代、習い事に通っていた家の娘に恋をしてしまいます。
人々は彼が娘に会うためにその家に通っているのだと噂します。彦斎の母はそれを
嫌がり、彼に習い事をやめさせますが彦斎の娘への思いはつのるばかり。

我こころ人はかくとも知ら雲の思はぬ方に立ちへだつ哉

うき名とや我身をしらで立ちしより恋といふ路をふみぞ初めにき

うき名とや我身をしらで立ちしより恋しく人を思ひ初めけり



【恋の歌その2】


彦斎の母は彼に浮名が立つのを恐れて、慌ててある家の娘をかしずけようと
しましたが、彦斎とその娘を対面させる前に母は死んでしまいました。
彦斎は一度も会ったことのないが、死んだ母が話してくれたその娘のことが
だんだんと恋しくなってしまったのです。


如何にせむ昔をしのぶ悲しさに見もせぬ人ぞ今は恋しき



【海外への夢】


吉田松陰の渡航計画に共鳴し、自らも海外への夢をはせ、藩に洋行希望を訴えます。
(結局許しは出ませんでしたが…)


大君の辺に死なずとも一筋に国のためにと思ひ立つ旅

まつろはぬ国言向けに高麗剣われうち渡り事はじめしむ

天つ日の照らさむ限りどこまでも国のためには行かましものを

たとひ身は夷の国に朽ちぬとも吾がみよしのの花は忘れじ



【武士となる】


肥後藩へ京都警備の要請があり、彦斎も警備兵として上京することになります。
坊主職を解かれ、蓄髪を許されたのです。武士となったことに感無量の彦斎

黒髪は生ひて昔にかへれどもなでにし人のいまさぬぞうき



【幕吏を斬るか…】


加茂神社に参り、朝廷に公武合体を迫ってきた幕吏をどうするか
(いつ、どのように斬るか)お伺いをたてた時。

大君の代安かれとふしおがむ心ぞうつるしゅの玉垣

限りなき天津日かみの葵草かけてぞいのる御代の行末



【三条公からの手紙】


三条実美から手紙を賜り、彦斎は自分の手紙とともに故郷にいる長男彦太郎に
送ります。それに添え付けた和歌。この身ある限り天子のため、国のために尽くそう。
彦斎の感激ぶりが伺えます。

君のため国のためにと尽くすわれこの身一つぞなほ頼みなる



【長男彦太郎へ】


彦斎は彦太郎が生まれる前に上京しています。まだ見ぬ我が子への愛・・・
いずれも国のために尽くせよという歌です。

子を思ふわが真心は大君の御楯になれといのるばかりぞ

大君のためにとつくせまごころをわが生みの子のいやつぎつぎに

紐刀とりて伝へむ国のため吾が生みの子のあらん限りは




【妻てい子へ】


妻のてい子さんは美人で気が強く、大変しっかりした女性でした。夫の死後も、
女手一つで彦太郎を立派に育てあげ、河上家を守っていきました

ゆがみなき竹のみをを頼むぞよただ一本のなでしこの花

素直なるませの操をたのむぞよただ一本のなでしこの花





【禁門の変】


禁門の変で死んでいった同志たちをしのんで。
彦斎は禁門の変では国司信濃隊について一緒に戦いました。
長州軍が大敗し多くの同志たちが死んでいきいました。

大山の峰の磐根に魂すえて動かぬ御代と守る神かも

大山の嶺より高くますらをがたてしみさをやあらはれなまし

むすびてし言葉の末は君がため死ぬる屍のうへに花さく





【奇兵隊に呼応】


高杉晋作の挙兵に呼応し、彦斎も一隊を組織しますが隊長になるのは固辞し、
自ら斥候役を買って出ます。

都出て定めぬ宿の草枕結ぶ旅寝の夢はかはらじ

常盤なる色やはかはる呉竹のうきふし繋ぎよにはありとも






【肥後藩説得】


第二次征長戦で長州軍にいる彦斎は幕軍である肥後藩と
戦うことになります。妻子のいる自分の故郷との戦に胸を痛める彼は、長州を立ち
肥後藩を説得しに行こうと決意します。

手束弓ひきわかるとも武夫のやたけ心のとほらざらめや

あだ波と人はいふとも国のため身を不知火の海や渡らん

しらぬ火の国におもひをこがすこそあかき心のしるしなりけり






【獄中で】


肥後藩説得が失敗に終わり、彦斎は獄につながれます。
入獄生活の中ではやる気持を詠んだ歌です。

国のためつくしこころの海ふかくこがれわたりしかひあらめやは

これまでのいのちなりけりもののふの道より外に何か思はむ






【維新後】


出獄後、明治新政府の方針(攘夷を破棄)を知り悲しむ彦斎。

夷うつ人は夷にまじらひてわが大君のみことそむけり





【宮部鼎蔵へ】


池田屋で命を落とした師宮部鼎蔵の七回忌に参加。
墓前にて改めて師の志を受け継ぐ事を誓う。

中々になすこともなくながらへてなくなく語る七とせの夢





【護送される】


奇兵隊の生き残りの同志たちが新政府に対しての怒りから暴動を起こし、
それを匿った罪として逮捕、東京に護送される彦斎。彼は最後まで信念を曲げませんでした。

火をもて焼き水をもて消せど変らぬはわが敷島の大和魂



【辞世の句】


君がため死ぬる骸に草むさば赤き心の花や咲くらん










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